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幸福度を向上させるサービスマネジメント(第一回)



1.はじめに

皆さん、こんにちは!
私はSOMPOシステムズ社に在職し、主に損害保険ジャパン社向けサービスにおけるITサービスマネジメントシステムの構築・運営を担当しています。専門は国際規格であるISO/IEC 20000(ITサービスマネジメント)、ISO/IEC 27001(情報セキュリティマネジメント)、ISO14001(環境マネジメント)、COBIT(ガバナンス)です。現職のITサービスマネジメント/人材育成・風土改革のほか、前職のSOMPOビジネスサービス社では経営企画・人事部門を歴任するなど、幅広い分野の仕事に従事してきました。このキャリアはIT業界で珍しいかも知れませんね。

さて、私の仕事である「サービスマネジメント」と聞いて、どんな仕事をイメージされますでしょうか?

サービスマネジメントとは、顧客のビジネスに必要とするシステムサービスの安定的な提供と継続的な改善を推進するための仕組みのことです。この仕組みは、国際標準規格になっていて、ISO/IEC20000と世界共通の規格番号で呼ばれています。この規格の特徴は、何と言ってもITサービスの提供を通じて、顧客へ価値をもたらすと共に関係する組織やメンバーに幸せをもたらすものなのです。

ここで皆さんへ質問です。
『あなたはお仕事をしていて楽しいですか? 幸せですか?・・・』

人生の中で多くの時を過ごす「仕事」ですから、苦しいより楽しいが良いに決まっていますよね。そして仕事を通じて幸せを感じることができれば、人生もより充実したものになると思います。では、仕事を楽しんだり、仕事を通じて素敵な時間を過ごすには、どのようにすればよいのでしょうか。

私はこれまでに、いろいろな分野の仕事に従事し、多くの人・仲間と出会いながら、多くのことを学び、人としても技術者としても成長させていただき今日があると思っています。そのなかで大切にしているメッセージがあります。それは「人に誇れる仕事をしよう」「人に喜ばれる仕事をしよう」「人の記憶に残る仕事をしよう」というものです。これは誰に対して何を行えばよいのか、何を結果として残せばよいのか、人の心に響く仕事とはどのような行動や活動の先に見えるものなのか、常に自分の仕事と正面から向き合ってこそ気付くものではないかと思います。

そして、このサービスマネジメントの国際規格であるISO/IEC20000と運命的な出会いは、ITサービス部門のシステム管理者として着任した時に訪れました。知れば知るほど、研究すればするほどに、大切にしているメッセージを体現してくれる優れた仕組みであることが分かりました。顧客のビジネスに価値を提供し、社会に貢献しながら、すべての関係者が幸せを体感できるサービスマネジメントの国際規格=ISO/IEC20000の魅力に皆さんも是非触れてほしいと思います。

このブログでは、今回(第1回)と次回(第2回)でサービスマネジメントの幸福度についてご説明します。さらに第3回以降は具体的なサービスマネジメントの国際規格であるISO/IEC20000の全体像や構造、適用の利点と方法などを分かりやすくご説明してまいります。

2.サービスマネジメントの幸福度とは

いろいろな組織を経験してきて一番に思うのは、「この組織が目指すもの」ってなんだろうと考えます。シンプルに「顧客のため」という漠然とした言葉ではメンバーに伝わりませんし、自分でも理解できません。例えば、朝礼で「みんなで頑張ろう!」と言っても、「(・・?」私たちはいったい何をすればよいのか?となりますよね。このようにならないためにも、ここからは「使命感」について考えていきたいと思います。

まずは仕事の価値について確認していきましょう。これはサービスマネジメントについて語るとき、「顧客のビジネスを成功に導くとともに、そのビジネスを通じた社会への貢献を意識することが大切である」と考えているからです。そのサービスマネジメントを実践していくうえで、個人のマインドや使命感はとても重要なファクターです。そして、この「使命感」を高めるためには、メンバー一人ひとりの仕事の目的や存在意義を明確に示していく必要があります。まず「石工」の逸話により、仕事へのマインドの違いを考えていくことにしましょう。その先には使命感が必ず見えてきます。

この逸話は、P・F・ドラッカーの著書『マネジメント』の中で紹介されているものです。登場人物の石工とは、石材を加工したり、組み立てたりする人のことで、建造物を建築する際に登場する方々です。その石工に「何をしているか」と尋ねた際の答えに注目してください。

・一人目の石工は『私はこの仕事で食べているのさ』と答えました。
・二人目の石工は、手を休めずに『国中で一番に腕のいい最高の石工としての仕事をしている』と答えました。
・三人目の石工は、目を輝かせて『この国で一番の大聖堂を建てているのさ』と答えました。

『マネジメント』(P・F・ドラッカー)

さて、皆さんはどう思われたでしょうか。
第一の石工は、仕事で報酬を得て、それにより生計を立てることとしています。
第二の石工は、自らの熟練した専門能力に磨きをかけ、最高のスキルを発揮することにすべてを注いでいます。
そして第三の石工は、この建築物の「目的」である大聖堂を造っていることについて、唯一語っていることがわかります。

皆さんはこの答えの違いをどのように思われましたでしょうか。この答えに正解・不正解はありませんが、価値観の違いによって、これだけの差がリアルに出てくることがお分かりになっていただいたと思います。

さて、この答えを幸福度という観点で観るといかがでしょうか。第一、第二の石工のように、仕事の真の目的やニーズ、ビジョンを理解せずに遂行すると、目先にある個人的な価値に偏り、せっかく得られるはずの社会的な意義や多くの達成感が得られる可能性は低いということになります。もちろん、報酬を受け取ることも、個人の専門性を高めることも、とても大切な行為であり活動です。しかし、第三の石工のように「多くの人々に愛される大聖堂を建てる」という使命感を前面に出し、労力を惜しまず取り組むことができたら、もっともっと本人も幸せになれると考えています。

さらに言うと大聖堂を建築するすべての関係者が「人々の祈りのための大聖堂の建築」という共通したビジョンを持つことが、組織的により良い“仕事”を遂行するためには必要だということを示しています。

図:サービスマネジメントの幸福度とは

実はこれには続きがあって、最後に奥にいた四人目の石工が登場して、「私は皆の心のよりどころを作っている」と語ったとあります。この四人目の石工は、大聖堂という建築物が社会の「安らぎの場」「心のよりどころ」となることを示していて、建物の建築という目的から、さらに「社会貢献の体現」という形で、自らの使命を奥深く理解していることになります。

すべてのメンバーが情熱を持って仕事に取り組めるようにするためには、その目的やその成果による価値を明確にすることで、意識そのものに変化を促すことができるということを示しています。

3.サービスマネジメントにおける幸せ連鎖

図にあるとおりサービスマネジメントにおける幸福度とは、自らの仕事の目的を正しく理解することと使命感・達成感の充実により、最終的な幸せの形が大きく変化します。仕事は稼ぐ手段か、自らの能力を高め磨くものなのか、そのことが社会に大きく役に立ち人々を幸せに導くものか・・・。その人それぞれの考え方で、「仕事の意義や価値」は大きく変わります。そのなかで私の考える幸せ連鎖は、

 ①「目的」 が明確だと 「使命感」が生まれます。
 ②「使命感」 が生まれると仕事の 「達成感」が得られます。
 ③「達成感」 が得られると 「価値の共創」を実感できます。
 ④「価値の共創」 が実感できれば 自身の仕事が「社会へ貢献」している
    ことをリアルに感じることができます。

「自らの仕事が人々の未来や人生につながっている」という幸福感に包まれる瞬間です。私たちの仕事は、どんな業種であれ、社会との共生の上に成り立っています。常にやりがいや働くことへの喜びを感じることができることこそ、エンゲージメントを高めていくことにつながると思います。

 そして、この石工の逸話を体現するには、自らの存在意義を明確にすることが必要です。その有用な手段の一つとしてパーパスがあります。このパーパスの追求こそが使命感の達成による「幸福感・幸福度の向上」につながると考えています。次回は、このサービスマネジメントの求める幸福度に関与する「社会との共生」、“企業や組織、そして個人の存在意義=パーパス“ について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

文/ITSMスペシャリティ認定者(Master)